《新作》波乱の黒騎士は我がまま聖女を蕩けるほどに甘やかす〜ループ二度目なので溺愛は拒否させていただきます!

幸せに………

 ふと眼前の聖ルグリエット様と目が合って、はっと息をのむ。
 蒼白の顔で言葉を失っているユフィリアに、大司祭様はゆっくりと御言葉を放たれた。

「聖女ユフィリア。幸せにおなりなさい」

 深い皺が刻まれた、齢《よわい》八十を越される大司教様のお顔が、蕩けるように微笑んでいる。
 ユフィリアの胸がどくりと脈打った。

 幸せ、なんていうものを求める気持ちは、遙か昔に捨ててしまった。

 幼い頃に両親を流行病で亡くしてから、貧民街で暮らす親戚の元で《そこにいない者》として扱われてきた。

 成長過程の身体には乞食同然の不潔なボロ布が張り付いていた。雪降る極寒の夜は筵を被って火が消えた灰の上で眠る。暑い夏の日は脱水を起こして何度も死にかけたが、それでも死なずに生きのびたユフィリアを見て、大人たちは苦々しげに舌を鳴らした。

 食べるものなど殆ど与えられず、草でも虫でも食べられそうなものは何でも口に入れて飲み込んだ。痩せ細った身体は骨が浮き、成長不良の薄っぺらい大根のようであった。

 その頃にはもう、《幸せ》という言葉がこの世にあることすら忘れていた気がする。



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