《新作》波乱の黒騎士は我がまま聖女を蕩けるほどに甘やかす〜ループ二度目なので溺愛は拒否させていただきます!
第一章
黒騎士
「だから、今日は無理《ムリ》っ! 気乗りがしないって何度言えばわかるの!?」
広々とした空間に響く声は、穏やかではなかった。
大聖堂の真ん中で声高に叫ぶのはユフィリア・ダルテ。
天まで届きそうなガラス張りの天井や壁にところ狭しと貼られた、煌びやかなステンドグラスが七色の光を放っている。
ゆるく巻いた銀糸を束ねたような髪がくるんと胸元で弾む。両耳の上に括られたボリュームのあるツインテールは人目を引く華やかさだ。
足早に逃げ出した聖女をあたふた追いかけるのは、この巨大な教会——聖都・中央大聖堂——に出仕する若い下っぱ神官だ。
「しかし聖女ユフィリア様、グロッケン伯爵は心の病に侵されているのです。精神の治療はあなたでなければ……っ」
今にも泣き出しそうな神官の腕を振り払い、ユフィリアはくるりと背中を向けた。
——精神の病って、あの人の場合はただの寝不足なのに大袈裟よ。
「だから嫌だと言ってるでしょう!」