《新作》波乱の黒騎士は我がまま聖女を蕩けるほどに甘やかす〜ループ二度目なので溺愛は拒否させていただきます!
 
 グレースはジュースをグラスに注ぐ手を止めた。
 透明な硝子の中でワインレッドの水面《みなも》がゆらゆらと揺蕩《たゆた》っている。

「そろそろ全部、忘れた方がいいのかな……って」
「ユフィ………」
「イザベラが、ルグランとの婚約を早めるかも知れないって」

 聖都にタウンハウスを置く貴族出身で爵位を継がない男児の志願者は、二十歳になると結婚するまでの数年間、聖騎士として寺院や教会に奉仕する。
 なかでも聖女がいる中央大聖堂を志願する者は多い。聖騎士は有能な聖女との結婚を目的とする者が多く、大人気な職業だ。

 はじめは聖騎士になんか目もくれず相手にしなかったユフィリアに、ルグランは毎日のようにモーションをかけ続けた。

 ——君は他の誰より愛らしい。
 少し力が弱いくらいが庇護欲をそそる、僕にはちょうどいい。
 媚を売って近づこうとする女性は苦手だ。君のつっけんどうな態度がむしろ可愛い。
 君が好きなんだ、付き合ってほしい。

 

 
 
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