《新作》波乱の黒騎士は我がまま聖女を蕩けるほどに甘やかす〜ループ二度目なので溺愛は拒否させていただきます!
本当に心の病を患っているのならユフィリアだって放っておかない、けれど。

——数日眠れない程度なんて病気でもなんでもない。
それより、さっき追い出されたご老人が心配。
吐きくだしが続いてるって、苦しそうだったから。
聖都の夜道をここまで歩いて来るだけでも辛かったでしょうに。

あの老女はどうなっただろう。
追い返されたりしていないだろうか。
失望と落胆に顔を歪ませた老女が、おぼつかない足取りで帰路につく姿を想像すればいたたまれなくなって、ユフィリアは眉根を寄せる。

他の聖女が対応できていれば良いが、昼間に聖女の力を消耗している者が殆どだ。夜間は……特に、裕福ではない平民への対応が遅れることは常であった。

そもそも全てがおかしい。
聖女という存在は貴族も平民も分け隔てなく、聖なる力を全ての民衆に与えるもののはずだ。

なのに筆頭司祭レイモンド卿が金儲けのために貴族を優先することをユフィリアは知っている。
どんな重篤な患者が命の危機にさらされていたとしても、だ。

さっさと大聖堂を出ようと急ぐユフィリアの視界に、開け放たれた扉の中央に立つ黒い人影が飛び込んできた。
マントを羽織っているせいでもあるが、人影は入り口を塞ぐほどに大きい。


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