《新装・R15版》夜伽侍女が超絶鈍感を貫いたら、皇太子の溺愛が待っていました〜蟲姫は美しい蝶に夢を見る〜
「うぎゃぁぁぁ────っ!」
のしかかる胸板を突き飛ばし、身体を両腕で庇うようにして跳ね起きたのはセリーナだ。
「こ、高潔な皇太子様が、《《そんなところ》》を触ってはいけませんよっ! お風呂には入ってきましたが、それでも穢れてしまいます、おやめください……っっ」
変人侍女に押し倒され、カイルは床の上に尻餅をついて横たわっていた。もはや呆れを通り越していて、侍女の怪力に恐怖すら感じてくる。
——この段階で、お前はまだ拒否するのか?!
すっかり固まってしまって動かない身体と、怒るべきか叱るべきかもわからなくなった感情を持て余し、言葉をも失ってしまう。
──この侍女、無理だ。
額に手を当てて項垂れる。
もはやこの侍女が今どんな顔をしているかなど見たくもない。
と言うか、見るのが怖くもある。
「もぅ下がって良い……さっさと下がれ…… いや出て行け!」
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さわさわと風に揺れる木々の葉音が心地よく耳に届く。
重なり合う葉っぱの隙間からいく筋も差し込む日の光が、カイルの頬の上を揺蕩っていた。
中庭のテラスで摂る昼食の席には、カイルとアドルフに遅れてロイスが加わり、三人がようやく揃ったところだ。