《新装・R15版》夜伽侍女が超絶鈍感を貫いたら、皇太子の溺愛が待っていました〜蟲姫は美しい蝶に夢を見る〜

 だがひとつだけ、いつもと違っているものがある。

「ちょっ、殿下? その座り方どうしたんですか……しかも顔色、悪っ!」
「ツッコむなロイス」

 アドルフが琥珀色のお茶を静かにすする。
 見れば叱られたあとの子供のように項垂れたカイルが、真鍮のチェアーの上で膝を抱えて座っている。いわゆる《三角座り》というやつだ。

「ちょ、小さい椅子が殿下の長い足、持て余してるじゃないですか」

 ロイスに諭されたカイルはおとなしく両足を下ろし、今度は姿勢を正してきちんと座り直した。

「どっちにしても叱られた子供ですね」

 何かありましたか。
 アドルフにも聞かれた同じ質問に、カイルの頭が更に下がってしまう。

「……なんでもない、ちょっと変わった侍女が居るだけだ」
「あ〜、その侍女にコテンパンにやられちゃったわけですね?」

「俺はまだ何も言ってない」
「百戦錬磨の殿下が、珍しい……というか初めてですよね、負けたの。」

 負けた、というのは相手が《《達しなかった》》という事実のデフォルメだ。




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