《新装・R15版》夜伽侍女が超絶鈍感を貫いたら、皇太子の溺愛が待っていました〜蟲姫は美しい蝶に夢を見る〜
なかば諦め、指定された時間も近いので急いで家を出た。
『ずっと伝えたかったことがある』
いったい、アベルに何を言われるのだろう。
待ち合わせ場所に行ってもアベルは来ず、騙されたという虚しさだけが残るのではなかろうか。
——やっぱりやめよう
けれどアベルは真面目な青年だ。
いくらセリーナが嫌われ者でも、あのアベルが人を騙すような手紙をわざわざ寄越すだろうか。
「行って、みようかな……」
九割九分以上の諦めのなか、砂のかけらほどの小さな期待がぽつりと浮き上がる。
村役場の裏手にある薔薇庭園に人の気配はなく、閑散としていた。
まだ花は乏しく、まばらな葉の中にちらほらと小さな蕾を付けているだけ。
セリーナが先に着いたのか、それともやはり揶揄われただけなのか。