《新装・R15版》夜伽侍女が超絶鈍感を貫いたら、皇太子の溺愛が待っていました〜蟲姫は美しい蝶に夢を見る〜

次第に心がすぼみ、ほんの少しの期待さえも失いかけたとき、アベル・フレイバンは現れた。

明らかに農民ではないとわかる、上質なフロックコートを羽織った青年が薔薇の生垣をぬい、こちらに向かって歩いてくる。

「突然呼び出したりしてすまない」
「アベル……?」

来てくれたのね。
言いかけたけれど、誘われておいてこちらからそれを言うのはおかしいと言葉を飲み込んだ。

アベルは数年前に見かけた時より少年ぽさが抜けており、整った顔立ちに精悍さが増したような気がした。

何か話さなくては。
けれど年齢の近い男性と面と向かって話すのなんて気が遠くなるほど久しぶりで、言葉が出てこない。
アベルも落ち着かないのか、視線を泳がせたり指先で頬を掻いたりしている。



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