《新装・R15版》夜伽侍女が超絶鈍感を貫いたら、皇太子の溺愛が待っていました〜蟲姫は美しい蝶に夢を見る〜
「エライザ……何を言っているのか、私、意味が……っ」
——当人のアベルは?
エライザの理不尽な言い分を認めるはずがない。
たとえ一瞬でも心惹かれたことがある人を——アベルを信じたい。
そして砂のかけらほどの小さなものだったけれど、アベルに期待した自分の気持ちを信じたかった。
「ねぇ、セリーナ。あなたやっぱり馬鹿よね? 好きな人から手紙をもらって喜んで、のこのこやってきて。でも少しはいい思いをしたでしょう? 一瞬でもアベルに抱きしめてもらったんだから」
視線を斜めに落としたまま、アベルは淡々と言葉を続ける。
「セリーナ……君を巻き込んでしまったのは謝るよ、悪かったと思ってる。僕が君に言った事は本当だが、エライザにはそばに居て欲しいから」
耳を疑った。
アベルはそんな事で人を騙して、おとしめたりする男だというのか。
この村一帯の地主の息子で、けれど弱き者を軽んじることなく公明正大に物事を見極め、正義感が強く、優しい人だったはずだ。
女の子たちが憧れるアベル・フレイバン……セリーナだって例外ではなかった。
なのにこの男は、エライザの陰湿な提案に同調するほどのクズだったというのか。
——だめだ、もう笑えないっ!