《新装・R15版》夜伽侍女が超絶鈍感を貫いたら、皇太子の溺愛が待っていました〜蟲姫は美しい蝶に夢を見る〜

物心ついた頃から村の若者たちの(そし)りを受け続け、自己肯定感が全くと言っていいほど育たなかったセリーナだった。
自分の想いや発言に自信が持てず、つい《《どもりがち》》になってしまう。

「ええ勿論。でなければ話が違うと皆が怒ってしまうでしょう? 今のあなたのように。出願書類にも重要事項として一筆書かれていたはずです。まさか、確認されなかったのですか?」

「そっ、そうなのですか……」

皇太子の夜伽業務が、重要事項として一筆添えられていた。そう言い切られてしまっては、セリーナは返す言葉を失ってしまう。
それに出願書類と聞けば、思い当たる節があった。

——お母さん……っ。
いつもの天然ぼけで書類を書き損じたのね?! 重要事項もろくに読まずに……しるしを付ける場所を間違えたのですね、お母さんっ

希望役職の欄に(しるし)を付けることで、受理される役職が決まるはずだった。


『書類、書いて出しておいたわよぉ〜』


にこやかな微笑みを浮かべる母の笑顔が眼裏に浮かぶ。
セリーナの皇宮への出仕は何年も前から母親が望んでいた事だった。

——『侍女』って文字のすぐ上に『下働き』っていうのがあったでしょう、お母さんっっっ

もともと不本意だったセリーナの人生が、ますます望まない方向へと進んで行く。

そもそも皇宮で働くことなど微塵も望んではいなかった。
生まれた村で、優しい両親と可愛い弟とともにひっそりと与えられた命を生きる。

ただそれだけで、じゅうぶんだったのに。




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