《新装・R15版》夜伽侍女が超絶鈍感を貫いたら、皇太子の溺愛が待っていました〜蟲姫は美しい蝶に夢を見る〜
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「そんなにガッカリしなくても」
肩を落としたまま立ち上がったセリーナに、隣の令嬢がにこやかにまた話しかけてきた。
「カイル殿下はとっても素敵な方ですよ? 私なんて、このお仕事が決まってから興奮して眠れませんもの」
令嬢はまるで恋する少女のようにうっとりとした表情を浮かべている。
しかし夜伽つきの鬼畜業務をわざわざ志願するなんて、いったいどういう心づもりだろう。セリーナは訝りの目で見てしまう。
——そりゃあ眠れないでしょう。私の場合は不安と恐怖からですけど……!
「私はアリシア・レイゼルフォン・デマレ。南帝都出身で能力は《治癒》ですが、あなたは?」
「アリシア、すてきなお名前ですね。それに治癒能力者だなんて……っ。私、初めてお目にかかりました」
治癒能力。
数ある『能力』のうち唯一攻撃性を持たないもので、その名のとおり傷ついた者を癒す。
ただでさえ絶対数の少ない能力保持者のなかでも、治癒能力を持つ者は稀少だ。
軍を率いる帝国の皇太子から切望されるのは間違いないことくらい、戦争を知らないセリーナでもわかる。