《新装・R15版》夜伽侍女が超絶鈍感を貫いたら、皇太子の溺愛が待っていました〜蟲姫は美しい蝶に夢を見る〜
「侍従長さま!」

扉の向こうに黒いタキシードを整然と着こなした大柄の男性が立っている。
分厚い壁のような体躯のせいで、首に巻かれた黒い蝶ネクタイがとても小さく見える。壮年の男性の髭を生やした精悍な顔立ちは凛々しく、威厳がすさまじい。

——建物の中でも手袋をしているなんて。

皇城で出会うもの、目に映るものはどれを取ってもきらびやかで、いちいちため息が漏れそうになる。
侍従長は扉口に出迎えたアリシアに向かって耳打ちをした。

「……皇后さまがですか?!」
シッ! 侍従長と呼ばれた男性が口元に人差し指をあてる。

「承知、いたしました」

眉根を寄せたアリシアが心配げにセリーナを見遣った。
侍従長まで睨むような視線を向けてくる。

——な、何っ?! さっそく私、知らないうちに《《やらかした》》のかしら……



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