《新装・R15版》夜伽侍女が超絶鈍感を貫いたら、皇太子の溺愛が待っていました〜蟲姫は美しい蝶に夢を見る〜
 肩越しにそうっと見てみると。
 案の定、青年の視線が背中に刺さっている。
 奇妙な沈黙を破ったのは、青年の穏やかだが明晰《めいせき》な声だ。

「そこで何をしている?」

 セリーナは慌てて向き直り、丁寧にお辞儀をして見せた。
 ちらっと見えた青年の表情は、まるで森の中でウサギに遭遇したみたいに穏やかだ。

 ——叱られるわけじゃなさそうね?

 と、ほっと胸をなで下ろした。
 宮廷にきて早々、村に追い返されるわけにはいかないのだ。
 もしもそんなことになれば、村の者たちにどんな蔑みの言葉をぶつけられるだろう——想像すればおそろしかった。



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