《新装・R15版》夜伽侍女が超絶鈍感を貫いたら、皇太子の溺愛が待っていました〜蟲姫は美しい蝶に夢を見る〜
「皇后様っ、これ以上お話になられてはお身体に障ります!」
白樺の枯れ枝のように細く弱々しい指先がゆっくりと持ち上がり、医務官の言葉を制止する。
「わたくしの宝物……ひとり息子のことを、どうぞよろしく頼みます」
——ひとり息子って、カイル殿下のことですよね?
いくらよろしくと皇后様にお願いされてもっ。私には、どうすることもできませんよ……?
「《《セリーナ・シャルロット・ダルキア》》。わたくしは、あなたを見ていますよ……この命が尽きるまで」
コホ、コホ、コホ、コホ
陛下の咳は止まらない。
「……っ……?!」
《シャルロット》というミドルネームをおおやけにした事は一度もなく、セリーナの家族以外に知る者などいないはずなのに。
——陛下は《《その名》》を、どうしてご存知なのですか——。