《新装・R15版》夜伽侍女が超絶鈍感を貫いたら、皇太子の溺愛が待っていました〜蟲姫は美しい蝶に夢を見る〜

突然耳元で響いた声に背中が粟立った。
陛下の事が気になって、名前を呼ばれていたのに気付かずにいたようだ。

「アリシア?!」

どうしたの、ぼーっとして。
湯気を立てた食事のトレイを卓上に置きながら、明るい声が降ってくる。

「お部屋に戻って来ないものだから、食堂《ここ》だと思って。それで……皇后陛下のご用事って、何だったの?」

興味津々に聞かれても、答えようがない。

「私も今ちょうど、それを考えていたところなんです」

セリーナにとって何よりの疑問は。
皇后様ともあろうお方が、帝都から遥か彼方の田舎に住む両親と自分を知っていたこと。
おまけに誰にも名乗ったことのない、ミドルネームまで知られていた。

「私の拙い想像力で精一杯考えた結果ですが……皇后様はおそらく、どなたかと私をお人違いされているのではと」

とっさの言い訳だとはいえ、人違いだなどとつまらない誤魔化し方をしたものだ。



< 64 / 77 >

この作品をシェア

pagetop