《新装・R15版》夜伽侍女が超絶鈍感を貫いたら、皇太子の溺愛が待っていました〜蟲姫は美しい蝶に夢を見る〜
皇太子殿下の香り
香りは人の印象を決定づける。
臭いものは本能的に拒絶感を抱くし、いい匂いのものには好感を持つ。
もちろん、香りの好みはあるけれど。
セリーナにとってその香りは人生で全く遭遇したこともない未知なるもので、いったい何をどうすればこういう《いい匂い》が人の手で創り出せるのだろうとも思う。
化学というものはセリーナが知らないところでどんどん発達をしていて、帝都に来なければ一生存在すら知らなかったものが、この宮廷に溢れている。
——世界は不公平ですね……
毎日いただいている、美味しい食べ物だって。
セリーナの両親は生涯口にすることも、その味を想像することすらないだろう。
地方者の宿命《さだめ》とはそういうものだ。宮廷《ここ》に来たからこそ気がついた。
皇太子の《香り》を知ったのは、回廊ですれ違った時。
すれ違う時に限られるが、皇族関係者に使用人たちはお辞儀をし続けなければならない。腰を折って頭を深く下げ、彼らが通り過ぎるのをひたすらに『待つ』のだ。