《新装・R15版》夜伽侍女が超絶鈍感を貫いたら、皇太子の溺愛が待っていました〜蟲姫は美しい蝶に夢を見る〜

一度通り過ぎたが、その気配が何かを思い出したように立ち戻った。そしてセリーナの前に立つと、

「顔を上げて良いぞ」
 
顔を上げていい、とは言われたものの……うかつな事をして、あとで侍従長様に叱られるのではないかしら?!
心を揺さぶる声と戦いながら、セリーナはおそるおそる半身を起こした。

初めてカイル殿下と対峙《たいじ》する——。
胸を叩く鼓動が、一気に激しさを増した。


——こっ……この方が、皇太子殿下……?!


整った顔立ちに清潔感の漂う黒髪を整然と後ろに撫でつけ、長いまつ毛に縁取られた群青色《あおいろ》の瞳は、全てを見透かすように凛々しくきらめく。

恐ろしい人だと聞いていたけれど、 セリーナを見下ろす視線は優しくあたたかくて……好みのタイプなので、つい見入ってしまった。



< 69 / 77 >

この作品をシェア

pagetop