《新装・R15版》夜伽侍女が超絶鈍感を貫いたら、皇太子の溺愛が待っていました〜蟲姫は美しい蝶に夢を見る〜
「……どんなにお慕いしても、どんなに手を伸ばしても届かない絶対的な存在、その人に抱かれるの。最初は嬉しかった。ドキドキしたし、幸せだと思った。でもそのうちに気が付いた……何かが違うって」

セリーナの肩に置いた手を滑り落としながら、崩れ落ちるように座り込む。静かな嗚咽とともに、両目から大粒の涙が溢れ出す。

「感情がこもらないものには、何の喜びも説得力もない。これが私たちの『責務』なんだ、これはお仕事だから仕方ないって……何度も何度も自分に言い聞かせて……。それでも身体は正直だから応えてしまう。感情を持たない彼の手に」

「アリシア?!」
「可笑しいでしょう、ずっと……今日の日を望んでいたはずなのに。どうして……こんなに悲しいんだろう……っ」

堰《せき》を切って溢れ出してしまった言葉を拾い集めながら、セリーナは弱々しく震える肩を抱きしめた。
華奢なアリシアの背中からは、皇太子の香りがする。





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