《新装・R15版》夜伽侍女が超絶鈍感を貫いたら、皇太子の溺愛が待っていました〜蟲姫は美しい蝶に夢を見る〜

セリーナの記憶では、皇太子は回廊で会った黒髪の好青年だ。暗がりなのではっきりとは見えないが、目の前の青年はどう見ても《黒髪》ではない。

シュッと胸元のジッパーを下ろし、そばで見られているのを物ともせずに青年は重厚そうな礼服を脱いでいく。

——ご案内係の《《おばあさま》》が、うっかりお部屋を間違えたのでしょうか。
よくわかりませんが、メイド仕事としては先ずこのお召し物を片付ければいいのよね?

青年はセリーナに背中を向けたまま、脱いだものを怠惰に手渡す。
受け取った礼服は嵩高く、想像していたよりもずっと重い。

——宮廷の男性はこんなものを毎日お召しになって、肩が凝らないのかしら。

礼服を抱え上げたとき、セリーナの知る《香り》——爽やかなグリーンムスク——がふわりと鼻腔をかすめた。それはアリシアから《皇太子殿下の香り》だと教えられたもので、けれど先日、回廊で出会った黒髪の青年のもので……。

これはどういう事だろう。
目の前の青年と、回廊で会った皇太子がたまたま同じ香水を使っているだけ?

——でも案内されたのは確かに皇太子殿下のご寝所で、この男性《ひと》はアリシアに教えてもらった《皇太子殿下の香り》を纏っていて。




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