《新装・R15版》夜伽侍女が超絶鈍感を貫いたら、皇太子の溺愛が待っていました〜蟲姫は美しい蝶に夢を見る〜
体力には自信があるものの、これほど政務が立て込むと流石《さすが》に疲弊してしまう。ようやく自室に戻れたと思えば夜伽《よとぎ》の日で、汗を流そうとするとあの侍女の失態である。
——たかが精油、されど精油だ。
疲れを取る効能もあるが、あの芳香が湯から漂うとホッとする。今日のような日は特にな。
「夕食の時間、取れなかったから空腹だ…………」
今にも鳴りそうな腹をしかめ面で撫でながら、疲労を残したまま湯殿を出ると——。
灯りが消えた暗闇の中で、侍女が影のようにベッドの上で正座をしている。
——何だあの侍女……怖いんだが!?
「なぜ灯《あかり》を点けない」
「窓を開けたら風で炎が消えてしまいました。洋燈が高いところにあるので届かなくて……」
「お前は能力を持たないのか?」
カイルが指先を向けると、銀細工が豪華な洋燈にボッと青白い炎が灯る。
寝室が薄明かりに包まれ、寝台の上に鎮座する白の侍女が眩しそうに俯いたのが見えた。