《新装・R15版》夜伽侍女が超絶鈍感を貫いたら、皇太子の溺愛が待っていました〜蟲姫は美しい蝶に夢を見る〜
身体中が泥にまみれ、髪は小さく頭の上に引っ詰めて。
自分の女子力の無さを気にすることすら、ずっと昔に忘れてしまった。
村の若者たちがセリーナに付けた異名は『ガイム』。
嵐の夜にだけ泥の中から顔を出し、地を這い回る醜悪な嫌われ者の虫だ。
若者のみならず幼い子供たちまでもがセリーナを、ガイムにちなんで『蟲姫』などと呼ぶ。
「蟲姫がなんか食ってら〜っ!!」
林の影からセリーナを嘲け笑う子供たちの声が飛んできた。
拳を上げて「コラ!」と叫ぶと、うわぁぁぁっと大きな歓声があぜ道を走り、遠ざかっていく。
幼子といっても秀麗・醜悪を見定める眼がちゃんと付いている。村人から罵られることにすっかり慣れてしまったセリーナの感情が揺さぶられることはなかった。
ひとしきり野良仕事を黙々とこなしたあと、ライ麦パンに薄いハムを一枚挟んだだけの昼食を食べながら頭上に広がる青空を仰いだ。
一人きりで摂る食事。
いつもは一緒の父親も、今日は市場に野菜を売りに行っている。