《新装・R15版》夜伽侍女が超絶鈍感を貫いたら、皇太子の溺愛が待っていました〜蟲姫は美しい蝶に夢を見る〜
カイルとは歳が近いせいもあり、二人の間には身分の差を超えた兄弟のような近しい空気が漂っている。
「殿下、今日のご予定ですが」
アドルフがつらつらと覚書を読み上げるのを静かに聞いていたカイルだが、声が途切れると小さくため息をつき、
「……それで最後か? 今日は少ないのだな」
皇太子カイル・クラウド・オルデンシアは、二十六歳の若さにして帝国の全権を掌握している。年老いた皇帝は事実上隠居しており、政治・軍事指揮ともに嫡子であるカイルの手にゆだねられていた。
何しろ十数余の国々を纏める大帝国だ。
各国の大使が来城する皇室会議や接見が毎日のように行われていて、カイルがそれらを取り仕切っている。
分刻みの政務に追われ城内を走り回る日々だ。
「朝イチの接見は『麓王の間』か。ここから遠いな……急ごう」
「麓王はそのあとです、まずは『親王の間』へ」
広大な皇城内を移動するには小走りでも時間がかかる。城の中心部をめぐる回廊をアドルフと共に走った。
時々すれ違う侍女たちが立ち止まって深々と礼を取る。
*
回廊ですれ違った白の侍女に書類を託し、アドルフは廊下を進む足を早めた。
──《白の侍女》にしては、何というか……《《一般的な》》子だった。