大切なきみがいつまでも幸せでありますように

1.

「今年はふたりで花火大会行こう。約束な!」

 鮮やかなオレンジ色の夕暮れが、落ち着いた藍色に変わっていく。
 心臓の音も、急ぐ自分の足音も、とてもさわがしい。
 ようやくたどり着いた待ち合わせ場所の神社の前。
 あたしに気づいたあいつは、穏やかに目を細めて、
「凪沙!」
 と、片手をあげる。
 今の空と同じ藍色の浴衣を着た拓海がいた。

 日に焼けた肌。背が高いわりに、ちょっぴりあどけなさの残る顔つき。
 浴衣姿は大人っぽいフンイキだけど、その笑顔はいつもと変わらない。

「どした、なにボーッとしてんの? まさかオレに見とれてるとか?」
 あたしはハッとわれに返る。
「ち……ちがうっ。そんなんじゃないよ。ちゃんと約束どおりに来てくれたんだな、って驚いただけ」
「そりゃ、オレだって約束のひとつくらいは守るって」
「だって、拓海ふだんすごいルーズじゃん。だいたいいっつもあたしが先に待ってるし、時間どおりに来てくれたことなんて……」
 拓海はうるさそうに耳をふさいで。
「わーった、わーった。そんなにカリカリすんなよ。せっかく久しぶりに会えたんだから、もっとうれしそうな顔見せろ」

 カリカリすんな?
 
 あたしはうれしそうどころか、むうっとほおをふくらませて、
「誰のせいだと思ってんの?」
 と、不満をぶちまける。
 だけど、拓海はそんなあたしをおもしろそうに笑って、
「じゃあ、行こっか」
 と、手をつないで歩きはじめた。
 鏡を見てないけど、自分のほおが赤くなったのが分かる。

 ダメだな、あたし……。
 さっきまでムカついてたはずなのに。
< 1 / 6 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop