男主人公が私(モブ令嬢)の作る香水に食いつきました
 ーーそんなこんなで、パーティ当日。

「おおっ、我が愛しのリーチェよ」

 大げさに両手を広げて感嘆の意を示すマルコフに、私は微笑みだけを返した。
 今日までに絞り上げた体に(食事制限やコルセットによる締め付けが主だけど)、侍女が施すマッサージ。肌もすべすべでツルツル。
 そして優美なドレスに煌びやかなジュエリーを身に纏った私は、まるで本日の主役かと言わんばかりの出来栄えだと、自分でも思ってしまう。

 本日のドレスは今日の日のために仕立て上げたもの。
 私の赤い髪に合わせた、赤を基調としたドレス。秀麗な刺繍は品が良く、しかし目立ちすぎず、品性を感じさせる。
 そして何より、このドレスはレオンと対になるように色合わせされている。
 そのためさりげなく入った刺繍の色はレオンの髪色である黒だ。

「ところでリーチェ、侯爵様はいつ頃お見えになるのだ?」

 マルコフの言葉にハッとして、時計に目を向けた。

「そろそろいらっしゃる頃かと……」

 そう言った矢先だった。部屋をノックする音が聞こえたかと思ったら、執事が開け放たれていた扉から足を踏み入れ、こう言った。

「ちょうど今、侯爵様がお見えになりました」
「わかったわ。すぐに向かうと伝えてちょうだい」

 私がそう言ったと同時に、マルコフはちょび髭を撫で付けながら執事の後を追うようにして部屋を出て行く。

「パパ、どこへ行くのですか?」
「侯爵様がお見えであれば、挨拶しないわけにはいかないだろう」

 レオンに詰め寄ったりしないよね……?
 いや、するか。マルコフだもの。絶対する。
 娘との結婚のこととか話したくて仕方ないんでしょうね。

「パパ、この間話したことは覚えてますよね? レオン様は石橋を叩いて渡るタイプなので、あまり押しの強いことはなさらないで下さいね」
「ああ、分かっているとも」

 ガハハッと笑い声をあげたマルコフは、とても信用ならないけど。でも、まっ、レオンもマルコフのことを理解してるような口ぶりだったし、大丈夫でしょ。
 そう思って、私はマルコフの後を追って部屋を後にした。

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