男主人公が私(モブ令嬢)の作る香水に食いつきました

   *


 玄関ホールへと続く階段から玄関扉へと視線を向けて、意中の相手を探す。けれど探す必要もないほど、相手は煌めき眩しい輝きを放っていた。
 天井から吊り下げられたシャンデリアの輝きよりも、私が身につけているどの宝石よりも美麗なその出で立ちに、私は思わずよろめいて階段の手すりに身を預けた。

 ーーかっこよすぎるし、美しすぎる。

 普段とは違い、髪をかきあげた様子に、私と色合わせをした対となる正装。胸の高鳴りを抑えろという方が無理な話だ。
 手をそっと鼻へと当ててみるが、鼻血は出ていない様子。この間のことがあって、マインドコントロールを強化した結果の賜物だろうか。

 ドレスも赤を基調としたものを指定しておいて良かった。万が一鼻血が飛び出しても、多少は馴染んでくれるだろう。
 これが現代人の危機管理能力の賜物だ。常に最悪のケースを想像して、先回りしておく。
 念のため鼻隠し用の扇と、ハンカチは常時しているし。今日はスタンバイバッチリだ。

< 104 / 137 >

この作品をシェア

pagetop