男主人公が私(モブ令嬢)の作る香水に食いつきました
 思わず私の体はグラリと揺らいだ。けれどそのままコケることはなかった。隣に立つレオンが私の腰に手を添え、踏みとどまらせてくれたからだ。

「そんな心配などしなくとも、その意中の相手はあなたに夢中ですよ。お前もそう思うだろ、リーチェ?」

 私は何も返事はせず、ただひたすら甘いこの状況に身を委ねていた。


   *


「ーーで、あれは一体どういうことでしょうか?」
「あれとは一体、どの話でしょうか?」

 あのままレオンにエスコートされながら、私達は屋敷を後にした。そしてキール邸に向かう馬車の中で、やっと私は疑問を口にする事にした。

「媚薬香水をつけて来た、本当の狙いです」
「理由なら伝えたではありませんか。どうしても虜にしたい女性がいるのですよ」

 ふっと笑みを零したかと思えば、レオンは長い足を肩幅に開き、その膝の上に肘をついて手を組み合わせた。
 私に挑みかかるように、青い瞳が妖しく輝いている。

「虜にしたい女性がいるのではなく、媚薬香水を試したいというのが魂胆なのでは?」
「相変わらず鋭いですね。ですが半分正解と言ったところですね」
「半分? では、もう半分の正解とは?」

 目を瞬せながら、首を傾げた。するとレオンは背もたれに背中を預けるように座り直した後、こう言った。

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