男主人公が私(モブ令嬢)の作る香水に食いつきました
「リーチェは頭が良いのに、どうして一片に関してはそうも鈍感になれるのでしょうか」
「私が、鈍感……ですか?」
「ええ、ものすごく」

 最近のレオンはとても表情が豊かに見える。それはレオンが私の想像していた存在とは違っているのか、はたまた私がレオンの表情を読むのに長けているのか。
 ぶっきらぼうに見える彼の表情から、ほんの少し苛立ちのような歯がゆい様子が見て取れた。

「この状況で虜にしたい女性など、たった一人しかいないでしょう」
「それは、私ですか?」
「そうです」

 当たり前でしょう? とでも言いたげな物言いに、私は再び首を捻った。彼が言った、言葉の真意を謎解くために。
 私の前で媚薬香水をつけ、その効果を実験しているのと同じで、レオンがこう言うのには裏があるはずだ。
 問題はなぜレオンが私を虜にしたいと思ったのか。
 レオンの言った事を言葉通りに受け取ってしまってはいけない。
 何せ、私はモブ令嬢。脇役だ。舞台のお芝居でいうなら村人A。
 園児のお遊戯会でいうなら、舞台袖で立ち尽くしている木だ。
 両腕を必死になって上げて、木の枝を表現しているような、大木だ。

「気づいていて、なぜ知らないふりをなさるのか。私を試していらっしゃるのでしょうか」
「試すだなんて、めっそうもない。試されているのは私の方ではありませんか?」
「私が何を試していると?」
「それは私の方が聞きたいのですが。聞けば答えてくださるのでしょうか」

 レオンが私を虜にしたいと言ったのは、一種の謎かけだ。その謎を投げかける相手に聞いたところで、答えてくれるとは思えないのだけど……。

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