男主人公が私(モブ令嬢)の作る香水に食いつきました
「……何か言ってくれませんか?」

 その言葉に、一瞬この場から飛び去っていた意識が再び戻った。
 ……待て待て待て。なんで? なんでこんな事言うんだろう?

 気を抜いたら顔が赤く腫れ上がりそうなこの状況と、レオンの言葉に、私は必死になって脳を働かせる。
 だから、気を抜いてはいけない。むしろ私は何かを試されているとしか思えない。

「父に、何か吹き込まれたのでしょうか?」

 レオンの事だからマルコフに何かを言われたからと言って、それでこんな事を言うような人ではないはずだけど、今の私にはそれくらいしか理由が見つからない。
 マルコフに弱みでも握られた? だからこんな事を言うの?
 いいや、マルコフならそんな面倒な事を言わなくとも、私に命令さえすればいい。レオンと結婚しろと。
 でもレオンは違う。だったらレオンをたらし込む何かをしたのだろうか。

 だとしても、レオンが私を虜にしたいなんて言う?
 マルコフも賛成しているなら尚更、私の気持ちなど無視して婚姻へと話を持っていけばいい。

 ーー本当にマルコフとレオンが何らかの協定を結んでいるならの話だけど。

 いろんな事が私の脳裏を駆け巡る。
 その間もレオンは私に甘い視線を向け、彼の手は私の頰から耳にかけて、撫でるように動いている。
 まるで物言わぬその手で愛でも囁いているかのように。

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