男主人公が私(モブ令嬢)の作る香水に食いつきました
「あの、全てはフリですよね?」

 婚約するフリ。
 婚約者のフリ。
 それに伴い、恋をしているフリ。
 これは私を助けるための、いわばビジネス的協定。

「婚約の話はそうですね。ですが、フリとは建前で、私はあなたとなら本当にそういう関係になってもいいと思っています」

 至近距離から私を見つめる瞳は、ブレることを知らない。
 瞳がブレ始めたのは、そんな青い色に見つめられている私の方だ。

「……それも、設定ですか?」
「ここには私とあなたしかいません。それなのにフリをする必要があるとお思いですか?」
「思いません。だからこそ戸惑っているのです。レオン様のおっしゃる真意が読み取れなくて」

 素直に言った私の言葉に、レオンは小さくため息をついた。

「素直に言葉を受け取って下さい。それともリーチェから見て、私はそんなに軽い男に思えるのですか?」
「いえ、そんな事はありませんが……」
「これだけストレートに気持ちを伝えているにも関わらず伝わらないのであれば、私の日頃の行いという風に判断せざるを得ないのですが?」

 グッと唇を噛んだ。確かにレオンの言う通りだ。
 レオンの言葉を素直に受け取ってしまえば、彼は私の事が好きだと言う事になる。けれど私はその言葉を素直に受け取る事が出来ない。なぜならばマリーゴールドの存在があるからだ。
 私は知っている。彼が愛する運命の相手は私ではなく、マリーゴールドなのだと。

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