男主人公が私(モブ令嬢)の作る香水に食いつきました
 ぐおー! めっっっっちゃ、痛い‼︎

「だっ、大丈夫です……」

 私は勤めて冷静を振る舞った。さすがに後頭部を抑えつつ、瘤はないか確認しながら。
 なんでこんなに痛いんだろうって思って振り向くと、壁と窓の間の桟が突起していて、そこにぶつけたみたい。
 どうやら瘤になってるのは確定のようで、ぶつけたそこに膨らみを感じる。

「見せて下さい」

 そう言って、後頭部に添えていた私の手をそっと外し、レオンの大きな手が赤毛の間をぬって、瘤にそっと触れた。

「いっ……!」
「瘤になっていますね」

 付けていた手袋を外し、再びレオンの手がそっと私の後頭部へと伸びる。ひんやりとしていて、気持ちいい。
 そしてゴツゴツとした手が優しく触れるその様子に、私の心臓がドキリとする。頭の瘤よりも心臓の締め付けの方がむしろ重症な気がする……。

「冷やした方がいいのですが、あいにくこの辺りは何もないので……」

 そう言ってレオンは窓の外に目を向ける。民家すら見当たらないその光景に、レオンの表情が曇る。

「大丈夫です、ペパーミントの精油を塗っておけば腫れもやがて引くでしょうから」

 馬車酔い、コルセットの締め付けによる体調不良になった時用の応急処置として常備しているペパーミントのアロマオイル。
 古代ローマ人はペパーミントで編んだ冠をかぶって悪酔いするのを防いでいたといわれているほどで、鼻の中を抜けるようなスッとした香りを持つペパーミントは鎮痛・鎮痒・冷却・防腐作用などがある。
 だからよく湿布や軟膏にペパーミントが使用されているのだ。

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