男主人公が私(モブ令嬢)の作る香水に食いつきました
 やっぱりあれは何かの謎かけだったのだろうか。
 じゃあその謎の答えはなんなんだ?
 もう頼むから試すのはやめてくれ。答えを導き出すのは、とっくの昔にギブアップしてるんだから。

「あの……」
「今から塗りますので、動かないで下さい」

 有無を言わせぬ物言いに、私は氷のように固まった。というかこの状況に驚きすぎて、動けと言われてもちょっとすぐには動けそうにない。
 その間にレオンの手は私の瘤があるところに優しく触れる。甘い媚薬の香りと、ペパーミントの爽やかな香りが広がる。

 スーッとするミントの刺激に、私は少しずつ興奮が落ち着いてきて……マジでなんだこの状況……? と、脳が冷静な判断をはじめてしまった。
 冷静になった瞬間に襲ってくるのは、鉄の味がする赤い滝だ。
 私は思わず鼻を抑える。するとーー。

「終わりましたよ」

 そう言った後に、チュッと小鳥のさえずるようなリップ音が後頭部から聞こえた。

「こう、しゃく、サマっ……‼︎」

 慌てて飛びのこうとした私に、さらなる追い討ち。レオンは私の手を握りながら、私の頰にもキスを落とす。
 手や髪にキスされる事はあったけど、顔になんてーーああ、無理っ!
 そう思ったと同時に、私の鼻から溢れ出たのは羞恥心によるものなのか、喜びなるものなのか……綺麗にめかしこんだというのに、転生後二度目の鼻血ブー。

 それも推しの前で。
 というか、推しの前でしかした事がないのだけど。
 前世で徳を積まなかった事を、悔やむしかない。
 そしたらこんな辱めを受けずに済んだかもしれないのに。

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