男主人公が私(モブ令嬢)の作る香水に食いつきました
「おっ、降ろしてください!」
「降ろせませんね。靴もなければ、傷だらけではありませんか」

 頬に熱が集まり始めた時、目のやり場に困って視線を辺りにさ迷わせる。
 私の視界に映るのは、ヒソヒソと話を始める群集と困惑した様子の騎士や従者達。
 そして今にも火でも噴き出しそうな表情を見せているキールに、座り込んだままレオンをひたすら見上げているマリーゴールドの姿だ。

「……レオン、降ろしてください」
「ですから」
「コーデリア公爵様に話があるのです。どうか降ろしてください」

 レオンの反論を挟ませないように、私はキッパリと言い切った。
 さっきのように戸惑った様子も、恥ずかしがる様子も見せず、レオンの青い瞳を真っすぐに見据えて。
 そんな私の様子に一瞬驚いたように目を見開いたレオンだが、私の意志の固さを感じたのか、ゆっくりと私の足を地に降ろした。

「おい、自分が何を言ってるのか分かってるのか……お前は騎士で、俺は違う。しかも位の高い騎士が一般人に決闘を申し込むなど、狂気の沙汰だぞ」

 狂気の沙汰はお前も一緒だ。
 勝手に婚約を進言し、皇帝の許可をもらい、挙げ句にその婚約者の相手を前にして別の令嬢を口説き口説き口説き……どう考えてもキールの方が狂気ではないか。

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