男主人公が私(モブ令嬢)の作る香水に食いつきました
 普段はクールな彼が、キールに怒りを露わにし、決闘を申し込んでくれた事に、どれだけ胸が高鳴っただろう。

「感謝して下さいませ。心の広い私は、今の一撃であなた様が私の頬を打った事はチャラにいたしましょう。よって……」

 けれどそのどれもに、本来の私は感じてしまってはいけないのだという事を、再認識する結果となった。

「レオン様も、コーデリア公爵様に申し込んだ決闘は取り消してくださいませ」

 この場によく響くように、はっきりとした言葉でそう告げた。
 背後に立つレオンの顔を見なくても、今彼がどういった表情をしているのか、分かる気がした。
 驚きと、そしてなぜ……? と、そういった顔だろうか。

「……あなたはいつも、私の差し出した手を拒むのですね」

 ボソリとつぶやいた言葉が、背後から私の心臓を突き刺した気がした。悲しみをはらんだ声に、私は思わず振り返る。
 振り返った先にいるレオンの青い瞳は、静寂なほどに静まり返っていた。
 この夜空のように澄んだ瞳の奥に映るのは、欲望と葛藤にさいなまれる私の顔。
 そんな自分の姿が醜く思え、ありったけの勇気を総動員して口を開いた。

「……レオン様、あそこにいるご令嬢を安全な場所へ運んであげて下さいませ」

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