男主人公が私(モブ令嬢)の作る香水に食いつきました
 やはり世界は、私が描いた未来へと向かっているようだ。
 たとえ過程がどうであろうと。きっとルート自体はどれを選択しても問題がないのかもしれない。
 描く未来さえ、その通りに事が運ぶのであれば――。

「――きっと彼女の足は捻挫しているわ。倒れた時、変な体制だったから」

 お腹に力を込め、声が震えないよう細心の注意を払った。
 顔の表情筋が強張り、ミシミシと音を立てながら動いている。きっと今の私の表情はロボットよりも人間味がないだろう。
 今の私にはこの状況でこんな表情を作り、そう言うのがやっとだった。

 ……けれどレオンにとっては、私の不審な様子すら気づいていないかもしれない。
 彼は私の声が聞こえるまで、息を止めていたようだ。ハッと短く吐き出した吐息を私は聞き逃さなかった。
 その上彼の視線はまだ、マリーゴールドに向いている。
 あの青く澄んだ瞳に映るのは私の赤い髪ではなく、マリーゴールドの輝かしい黄金色の髪が遍いている。
 そしてそれは、この先もずっと……。

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