男主人公が私(モブ令嬢)の作る香水に食いつきました
「おい、人の心配をしている場合か? お前は今、この状況を理解しきれていないようだな」

 ギリリと奥歯を噛み、表情を歪めたキール。威圧的で、高圧的。私を辱めようと、亡き者にしようと画策する緋色の瞳。
 そんなキールの様子にも、もう私の体は震えない。心は静かに怯える様子も感じられなくなっていた。

 キールとのことより、私をより恐怖に陥れる状況があるせいなのかもしれない。
 ううん、私はどんな状況になっても一人で立ち向かわなければならない。レオンの決闘を反故にしたのも、それが理由だ。
 ビジネスの関係があったとしても、彼の助けは最低限にしなければならない。助けてもらう時は金銭が発生する関係にしなくてはならない。
 でなければきっと、私だけでなくレオンも後悔することになるのだから。

「この状況を理解しきれていないのは、公爵様の方かと思うのですが?」
「よくもぬけぬけと……」
「令嬢が足を痛め地面に倒れ、もう一方の令嬢は頬を赤く腫らしながらドレスを割かれているのですよ? どちらがより恥ずかしい状況なのかお分かりいただけないのでしょうか?」

 私は割けた胸元の生地に、そっと触れる。すると私の肩に掛けらているレオンの上着を、ギュッと背後から引き寄せられた。
 どうやらレオンの意識が、やっとこの場に戻ってきたようだ。

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