男主人公が私(モブ令嬢)の作る香水に食いつきました
 キールとの婚約は私の意思とは違うことをマリーゴールドはもう理解しているだろう。
 そしてレオンが駆けつけて私を助けた様子や、レオンと私の衣装が対をなしているという事も、彼女はもう気づいているはず。
 それがどういう意味なのか、気になっているに違いない。私のパートナーがキールではなく、レオンなのだとすれば、彼女はきっと気持ちを胸にしまおうと考えるはず。
 それが私が描いた女主人公だから。

 今、私の立ち位置からレオンの顔が見えなくて本当に良かった。背中を向けてくれているおかげで、彼が今どんな表情で、青い瞳はどんな風に彼女を見ているのかを知らなくて済むから。
 レオンがマリーゴールドを抱きかかえ、マリーゴールドも恥ずかしそうに頬に赤い薔薇を咲かせながら、再び私に目を向ける。

 私とレオンは書面上の婚約者でキール同様に形だけのものなのだと、マリーゴールドを安心させるような笑みを浮かべるべきだ。……そう思ってるのに、やっぱり私の表情は固まったまま固定されている。

 ーーごめんね。

 言葉にできない想いは、胸の中でつぶやくことにした。
 そしてそのまま私は、再びキールと顔を突き合わせた。

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