男主人公が私(モブ令嬢)の作る香水に食いつきました
「大丈夫です。彼女の従者には声をかけておきました。治療を終えてすぐ馬車に乗って帰ると言っていましたので」

 レオンの視線は真っ直ぐ前を見つめている。レオンの向かう先には馬車が待機している屋敷の入り口だ。
 けれどレオンの瞳は、屋敷の入り口を見つめているのか、それともーーそこまで想像を働かせたところで、レオンが再び口を開いた。

「彼女はリーチェ、あなたに感謝していました。そして同時に、あの場に一人残したあなたの事を心から心配していましたよ」

 ーーだから私はなるべく早く、あなたの元に戻ってきたのです。あなたの為ではなく、彼女を安心させるために。

 ……そんな言葉の続きが、聞こえた気がした。
 レオンの言葉に、そんな続きは存在しない。彼は私を抱き抱えながら、寡黙に歩いている。ただ一点を見つめながら。
 マリーゴールドの話題をすると、レオンの中でスイッチでも入ったみたい。さっきとはまるで違って見えるその表情に、私の胸の奥でとぐろが渦巻く。

 ……だから言ったのに。後悔するって。
 レオンが恋する相手は、私じゃない。レオンの運命の相手は、モブであるはずがない。

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