男主人公が私(モブ令嬢)の作る香水に食いつきました
「……レオン?」

 大きな窓ガラスの向こう側には、黒い髪に青い瞳のレオンがいる。そして、その隣で笑って立つのはーーマリーゴールドだった。
 ……なんで? なんでここにマリーゴールドがいるの? なんで二人が一緒にいるの?

 呼吸の仕方を忘れてしまうほど、ガラス越しに二人を見つめる私は、なんと滑稽な姿だろうか。
 レオンの表情はどこか穏やかで、背の高いレオンを必死に見上げているマリーゴールドの頬には彼女が着ているドレスと同じ、ピンク色が広がっている。

 二人が出会ったのは昨日が初めてのはずでしょ? それなのに翌日の今日、二人は一緒に街を出歩いてるというの? それも、私に隠れて……?

 心臓の鼓動はドクドクと早まっているのに、どんどん体の臓器が冷たく凍っていくような感覚がする。その上地面が裂けて、そこから奈落の底へと落ちていくような感覚にを覚えて、思わず足元がグラついた。

「リーチェお嬢様!」

 慌てた様子で側にいた従者が、私の体を支えた瞬間ーー私はレオンと目が合った。
 ーーリーチェ!
 彼がそう叫んだのであろう事は、その口の動きと表情から読み取れた。そんなレオンの様子を見た瞬間、私はよろめいていた足にグッと力を込めて地面を踏む。
 体を支えてくれた従者の手をそっと押し戻した時、レオンはショップの扉を開け放ち、私の元まで駆けてきた。

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