男主人公が私(モブ令嬢)の作る香水に食いつきました
 普段は冷徹男で、何を考えてるのか分からないような男だと言われる彼が、昨日出会ったばかりのマリーゴールドの前で笑って見せたのだ。
 緩んでいた空気が、一瞬でピンと張り詰めたのを感じた。それはこの場の空気ではなく、私の中にあるもの。気を緩めてはいけない。ちゃんと状況を把握し、理解し、自分の置かれている立ち位置を見直さなくてはいけない。
 そういった類の思考が私の背筋をシャンと伸ばす。

 ……そうだ。レオンがどういうつもりでマリーゴールドと一緒にいるのかなんて、考えるな。私は私のすべきこと、歩むべき道をいくまで。
 レオンとマリーゴールドがいるなんて思ってなかったけれど、不意を突かれたから何だっていうの?
 二人の出会いが早まっただけで、この先二人の姿を見る機会も、二人の惹かれあっていく表情を見ることも、多々出てくるはず。

 ーーチクン、と刺さる棘に一瞬顔を顰めそうになったけれど、私はそれでもグッと顔を上げる。

 私はこの世界でモブ令嬢だけど、これは私の人生だ。この世界の主役ではなかったとしても、私は私の人生の主役だ。
 私が私らしく生きられるように、今は最善を尽くすまで。

< 195 / 225 >

この作品をシェア

pagetop