男主人公が私(モブ令嬢)の作る香水に食いつきました
「いいえ、なんでもありません」

 そっけなく言葉を返し、私はレオンが指し示していた部屋の奥、白い扉に足を運ぶ。
 扉の前に立ってわかったが、うっすらとキラキラ輝く陣が見える。まるで太陽の光を浴びた水面のよう。
 けれどそれも遠目からは見えないし、この店内の雰囲気を壊さないように配慮されているように感じる。

「ああ、気にしないでください。この陣は錬金術師に頼まれてかけてある魔法です。害はありませんよ」

 魔法を見るのはこれが初めてだ。魔法で出来た何かとか、魔法でどうこうした話とかはたくさん聞いたけど、我が家に魔法使いはいない。
 今更ながらファンタジーの世界に足を踏み入れたような感覚がして、思わず胸が踊ってしまう。
 前世の私の幼少時代、将来の夢はと聞かれたら魔法使いになりたい! と言っていたほどのマジカル脳だった。大人になった後はさすがに世間の目が痛すぎて言わなかったけど、その分マンガの世界にファンタジーを構築していた。
 この青愛のマンガが生まれたのも、私のファンタジー脳のおかげである。

「これはどういった魔法がかけられてるのですか?」

 私の素朴な疑問に対し、レオンは薄い唇の端をほんのり引き上げた。

「中に入ってみればわかりますよ」

 そう言ってレオンが扉のノブを回し、私のために扉を押し開けて待ってくれている。

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