男主人公が私(モブ令嬢)の作る香水に食いつきました
 無言で見つめられたら、ドギマギしてしまう私の心臓。それは甘い疼きなんてものよりも、私何かした? っていう戸惑いの方が強い。
 もしかして、また鼻血出しちゃった⁉︎ とか思ったけど、私の無作法な鼻は手でしっかりガードしていたことをすぐさま思い出した。

 レオンは澄んだ清流が流れるごとく、サッとハンカチを取り出した後、その手が私の前でピタリと止まる。
 おっ、いつもの鼻血止めハンカチか? なんて思っていた私は、レオンの行動に注目していたが、そのハンカチをスッと上着のポケットに仕舞い込んだ後、彼の大きな手が私の視界を妨げた。

「あの、レオン様……?」

 奇怪な行動に戸惑う私。視界を塞がれたことで、周りの状況も見えないけれど、きっとこの場にいる誰もがレオンの行動を奇妙に思っていることだろう。

「また鼻血が、出そうなのかと思いまして」

 遠慮がちに耳元で囁かれる声。
 やめてくれ。視界を塞がれた状態で推しの声に囁かれるなんて、何プレイなの?
 レオンの吐息が私の耳をくすぐり、むず痒い。
 さらに言ってしまえば、むず痒く感じるのは耳だけではなく心の臓の方もだ。だからこの距離感をどうにかしたくて、私はレオンの手を払い除ける。すると露わになった彼の顔がどこか寂しそうに見えて、私は思わず首を傾げた。

「すでに鼻は塞いであったので、視界を妨げました」

 ……どういうこと?

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