男主人公が私(モブ令嬢)の作る香水に食いつきました
「えっ?」

 ほんのりつり上がった瞳が、おどろいたように見開かれた。
 おっと、しまった! 思わず声に出しちゃってたみたい。

「あっ、いえ、大丈夫です。支えてくださったおかげです。ありがとうございました」

 すっと立ち上がり、礼儀正しく頭を下げた。

「せっかくのパーティです。医務室へは一人でも向かえますので、どうぞ侯爵様はパーティを楽しんできてくださいませ」

 イケメンを見すぎて、これ以上は逆に目の毒だ。
 さっきから鼻の奥がツーンとして鉄のような味を感じるのもきっと、そのせいだと思う。
 鼻血が噴水のように吹き出してしまう前に、距離を取るべきと考え、私はもう一度ドレスを少し持ち上げてお辞儀をし、その場を立ち去ろうとした……けど。

「気遣いは無用だ。ちょうど人の多さに疲れてきたところだった。医務室に行くのもパーティを抜ける良い口実になる」

 いや、気遣いでは全くないのだけれど。むしろこちらの空気を読んでもらえませんか?
 こちとらあなた様とは違ってモブキャラ設定だし、前世でもずっとひきこもってマンガばっかり描いてるような日陰な女なので、長時間の日光浴は生命力を吸い取られて瀕死状態に陥るんですが。
 生命の危機を感じるのでなるべく長時間は一緒にいたくない。
 ずっと見ていたいと思える顔を描いたはずなのに、なんとも矛盾な話だろう。

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