男主人公が私(モブ令嬢)の作る香水に食いつきました
 マリーゴールドを見つめながら、私は彼女がレオンを見ていた表情を思い返す。すると胸の奥がチクリと痛んだ。
 間違いなく、彼女は恋に落ちた目をしていた。それは間違いない。私が描いたイラストと同じ表情を見せていたのだから、マリーゴールドがレオンに惚れたのは間違いない。

 だったら、レオンは……?

 そう思って、相変わらず私の隣りに立っているレオンに視線を向ける。すると彼は、オットーと楽しそうに耳打ちをするマリーゴールドを見つめていた。

「リーチェさん、早速抽出しますね。いいっすか?」
「おい」

 ずっと静寂を貫いていたレオンが突然、私の前に立ってオットーを見下ろす。
 いつもの表情なのに、背後からブラックなオーラを感じるのは、私だけ……?

「誰がリーチェと呼んでいいと、許可をした?」

 あっ、そこ?

「だったらなんて呼べばいいんっすか?」
「トリニダード男爵令嬢だな」
「なっが!」

 オットーは背中をくの字に曲げてのけぞった。
 なんとなく省エネ男子なのかと思ってたけど、リアクションは意外とでかいんだな、なんて思っている私を他所にレオンはさらに話を続ける。

「ならばトリニダード嬢だ。それ以上の譲歩はない」
「なんでバービリオン卿が決めるんっすか? リーチェさんはどう思います? この呼び方嫌っすか? なんならトリちゃんとか? トリ嬢?」

 誰だよ、トリ嬢って。そんな風に呼ばれる方が嫌なんだけど。

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