男主人公が私(モブ令嬢)の作る香水に食いつきました
「私のことはファーストネームで読んでくれて構わないわ」
「リーチェ……私達は彼の雇い主ですよ」

 いつも淡々とした表情と、何を考えてるのか分かりにくい彼の細めた瞳が、私を非難している。その声がそう私に伝えてくる。

「そうですが、レオン様はご存知でしょう。オットーは魔塔の人間、私達の持つルールとは違ったルール観の中にいるのです。ですから彼の言う呼び方でも気分は害しません」

 語尾を少し強く言うと、レオンは不満そうだが何も言わない。そんな様子を見て、私はふとある考えが浮かんだ。
 レオンを振り切るには、レオンのクソ真面目ともいえる考えを断ち切り、私がレオンに向ける思いも無かったことにする最短の方法……それは、私がレオンに嫌れればいいのではないか。

 右を向けと言われれば左を向くように、神経を逆撫でする。こいつに何を言っても無駄だと思わせれば、彼は自ずと私から離れようとするだろう。
 そして私は彼に嫌われたのだから仕方がない。そんなふうに思えるかもしれない。
 無理に義務を遂行し、彼の心を砕かせるよりは、彼に嫌われてしまった方が幾分か私の気持ちも楽というもの。
 罪悪感は前者の半分だ。

 それに、そんな私達の様子を見れば、マリーゴールドだって気づくはず。二人の関係はもう、ビジネス上のもの以外にあり得ないと。
 そうなれば、自分の気持ちを押し殺さなくてもいいのかもしれないと……。

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