男主人公が私(モブ令嬢)の作る香水に食いつきました
 レオンは表情を変えずじっと私を見た後、香水瓶を目の前にあるコーヒーテーブルの上に置いた。

「香りなど気休めだと思っていたのだが、思った以上に効果を感じた。だから一度これを作ったというそなたに会ってみたかったのだ」

 私の質問に答えはしなかったけど、彼が普段から疲れているのだという事はよく分かった。
 それでなければ、この香りを良いと思うはずもなかっただろうし、そもそも社交嫌いのレオンがわざわざパーティに出席なんてしなかっただろうし。

 ってか、そんなレオンをパーティに参加させるほど興味を惹いた私の香水って、めちゃくちゃすごくない?
 まだこのビジネスをはじめて日が浅いけど、幸先良い気がしてきた。
 というかこれも、前世では自分の趣味として勉強して自分用に作ってただけなんだけど。

 漫画家の仕事って、長時間原稿と向き合うからメンタルやられる事も多い。
 引きこもるから気晴らしも室内でできるもので何かないかな? って思ったのが、アロマテラピーを勉強するキッカケだった。

 学びはじめたらハマってしまって、仕事の合間にアロマテラピーの検定を受けてみたり、なんならマンガの中でもいつか使えるかもしれないって勉強した。
 まさか世界の違うここでこの知識が生きるなんて思ってもみなかったけど――なんでも興味を持っておくものね。

「少しでも侯爵様に安らぎを提供できていたのであれば、私としても嬉しい限りです。体とは不思議なもので、自分が今何が必要なのかを分かっています。この香りが自分に合う、効果を感じるという事は、その方の中でその香りの持つ力が不足しているという事。ですから、体の求めるサインを見逃さず、いたわってあげて下さいませ」

 本当は少し休息を取る事を勧めたいところでもあるけど、現代でがむしゃらに漫画を描いていた私が言えた義理じゃない。
 人はずっと全力疾走で走る事はできないけれど、やらなければならない時は全力で、時には長距離を走らないといけない時がある。
 だからこの香水がそういう人達の、そういう時の助けに一役買ってくれるのであれば、私の目論見通りだ。

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