男主人公が私(モブ令嬢)の作る香水に食いつきました

「少しでも侯爵様に安らぎを提供できていたのであれば、私としても嬉しい限りです。体とは不思議なもので、自分が今何が必要なのかを分かっています。この香りが自分に合う、効果を感じるという事は、その方の中でその香りの持つ力が不足しているという事。ですから、体の求めるサインを見逃さず、いたわってあげて下さいませ」

 本当は少し休息を取る事を勧めたいところでもあるけど、現代でがむしゃらに漫画を描いていた私が言えた義理じゃない。
 人はずっと全力疾走で走る事はできないけれど、やらなければならない時は全力で、時には長距離を走らないといけない時がある。
 だからこの香水がそういう人達の、そういう時の助けに一役買ってくれるのであれば、私の目論見通りだ。

 ……そもそも私とレオンは今知り合ったばかり。
 休息を、なんていう助言は愚にもつかない話だと取り合ってすらもらえないかもだし。

「なるほど。私が選んだものだと思っていた香りが、実は香りに選ばれていた……という事か。なかなか興味深い話だな」
「芳香療法と言って、香りのもつ力は偉大です。香りひとつでその人を好きになる事も嫌いになる事もあるくらいですから」
「ならば令嬢はコーデリア公爵が嫌いな香りの香水を作り、次回からは常時携帯する必要があるようだ」

 ……えっ? それって、虫よけスプレー的な?
 すっごいマジマジとした顔で言われてるんだけど。

「普段からつけていれば、あいつの興味も逸れるかもしれない」

 あっ、キールの事をあいつとか言ってるし。本人いないからって、すでにキールを蔑んでる。
 まぁ、恋のライバルになる相手だし、相手はあのクズいキールだし……仕方ない、というか同意する。
 実際のヤツはまごう事なきクズだったから。

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