男主人公が私(モブ令嬢)の作る香水に食いつきました
 ……そもそも私とレオンは今知り合ったばかり。
 休息を、なんていう助言は愚にもつかない話だと取り合ってすらもらえないかもだし。

「なるほど。私が選んだものだと思っていた香りが、実は香りに選ばれていた……という事か。なかなか興味深い話だな」
「芳香療法と言って、香りのもつ力は偉大です。香りひとつでその人を好きになる事も嫌いになる事もあるくらいですから」
「ならば令嬢はコーデリア公爵が嫌いな香りの香水を作り、次回からは常時携帯する必要があるようだ」

 ……えっ? それって、虫よけスプレー的な?
 すっごいマジマジとした顔で言われてるんだけど。

「普段からつけていれば、あいつの興味も逸れるかもしれない」

 あっ、キールの事をあいつとか言ってるし。本人いないからって、すでにキールを蔑んでる。
 まぁ、恋のライバルになる相手だし、相手はあのクズいキールだし……仕方ない、というか同意する。
 実際のヤツはまごう事なきクズだったから。

「それは願ったり叶ったりですが、そもそも私は公爵様の嫌いな香りというのを知らないので……」

 色んな香りをつけて試したとしても、そもそも私は彼に会いたくも、関わり合いたくもないのだから、試すのはリスクが高すぎる。
 一度会っただけの今日で、これだ。考えただけでゾッとする。
 さっきあった出来事を思い返して、私の肩がふるえた。
 するとレオンはすっと立ち上がり、私の背後から自身が着ていた上着を肩にかけてくれた。

「嫌な事を思い出させてしまったらしい。謝罪しよう」

 ……なんて優雅なイケメンだ。さっきとは違った意味で体が震える。悶絶ものだ。

「あの、ふと思ったのですが……その香水を今日はつけていらっしゃらないのですね?」

 さっき抱きかかえてもらった時、レオンからは甘いのに、清涼感を感じさせる香りがした。
 それは私が作った香水の香りとは違ってたんだけど……香水瓶は持ち歩いてるのに、中身は使わないの?

「ああ、普段から香水をつける習慣はなくてね。この香りを楽しむときは、ハンカチに振りかけたり、ルームフレグランスとして使用したりしている」
「えっ、ですが……今は別の香水をつけていらっしゃいますよね?」
「いや、つけていないが……?」

 いや、だって? さっきの香りはなんだったの?

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