男主人公が私(モブ令嬢)の作る香水に食いつきました
 目を覚ますと、鼻先をくすぐる花の香りと、ふかふかのベッド。
 シルクの生地を思わせる肌触りのシーツ。
 嘔吐物の臭いを覚悟しての目覚めだったはずが、逆をいく五感の感覚に私は勢いよく上体を起こした。

 ズキリと痛む頭部を抑え、やはり昨日は飲みすぎだと反省した。
 けれど私はどうやって家の中までたどり着いたのだろうと、記憶を探っていると、視界に飛び込んできた辺りの景色に茫然としてしまう。

 待って、どうなってんの……?

 天井が高い。高いだけでなく、装飾品がゴシック調。
 それを見ただけで、この光景がよく見聞きする中世の家のようだということだけは分かる。
 眠っていたベッドはキングサイズ。天蓋付きときたもんだ。

 私、どこぞの王族とでも一夜を過ごしたのだろうか……?
 いやいや、どこぞの王族って、どこのだよ。
 そもそも私は昨日、たらふくお酒を飲んでそれから――吐き倒した。

 頭の中に霧でもかかったような朧げな記憶の中で、少しずつ昨日の出来事をたどっていく。
 ああ、そうだ。飲んだ帰り、アパートまでたどり着いたところで私は、足を捻ったんだった。
 コンクリートの階段であと一段で階段を上りきれるというタイミングで捻って、転んで、頭を強打して、頭蓋骨が割れるような音を聞いた後――今に至る。

 ちょうど深いため息をついていたタイミングで、部屋の扉をノックする音が聞こえた。

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