男主人公が私(モブ令嬢)の作る香水に食いつきました
「ちょっと失礼いたします」

 スッと立ち上がり、私はレオンの隣に移動する。失礼とは思いつつも、レオンの胸元に顔を近づけた。
 自分にしては大胆な行動だと分かってるけど、他社商品の調査は必要だ。
 こうして目を閉じて、目の前にいるのはジャガイモだかにんじんだかを想像すれば、近づくことも可能だ。
 私はこうみえて、完璧主義者だから。恥と照れは、私の主義には敵わない。

「……やはり、とても良い香りがいたしますよ?」

 そう言って目を開けて、ふと顔を上げてみると、すぐそばに国宝級の美しい顔が。
 レオンの吐息が私の肌を優しく撫でるほどの距離だ。
 レオンの淡くて青い、透き通るような瞳が、驚いたように見開いている。

「しっ、失礼いたしました!」

 目を閉じてたせいか、さすがに近づきすぎた。
 慌てて身を引くと、勢い余ったせいか、体はぐらりと揺れた。私の視界には優美な天井が広がって――あっ、これ、ひっくり返るやつ!

 ソファーの縁に手をついたつもりが、思ったものを掴めなかったせいで、私はどうやらだるまさんの如くひっくり返るらしい。
 こんな状況にも関わらず、脳みそはどこか冷静で、少し先に起きる未来を予見して、私はそっと目を閉じた。

 ――ああ、終わった。

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