男主人公が私(モブ令嬢)の作る香水に食いつきました
 いやいやそんな事思ってる場合じゃないかも。そもそもレオンは侯爵様。立場も家柄も上だ。

「あの、どのようにお詫びしたらよろしいでしょうか……?」
「ならば、ひとまずこの手をどけてくれ」

 そう言われてハッとした。自分がまだレオンの顔を押し戻した状態で静止していたということに。
 イケメンの顔面に触れた手をそっと下ろし、レオンも私の体をゆっくりとソファーへ下ろした。

「……大変、申し訳ございませんでした」

 ソファーから降りて床に跪き、しずしずと頭を下げた。

「助けていただいてばかりだというのに、この恩知らずな仕打ち、申し開きのできないことでございます。品性典雅なバービリオン侯爵様のお顔を突き飛ばすなど、令嬢としても恥ずかしき行為でございました。悪気があってした事ではないという事だけでも、ご理解いただけますと幸いにございます」

 丁寧に詫びを入れた後、頭を下げたままの状態で私はこう思った。
 このまま私は家に帰ろう。今日は厄日だ。絶対そうだ。
 パーティに来たのに一口も飲めなかったお酒を一人で晩酌しながら、今日は床につこう。
 そんな風に思っていた私のもとに、再びあの香りが鼻先を掠めた。

「令嬢が簡単に跪くものではないな」

 言葉に引かれるようにして顔を上げると、レオンは私の前で片膝をつき、私の手の甲にキスをした。

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