男主人公が私(モブ令嬢)の作る香水に食いつきました
――コンコン。
「失礼いたします。リーチェお嬢様、ご支度の時間でございます」
「リーチェ、お嬢様……?」
人間違いだ。間違いなく私は純日本人で、横文字の名前でもなければ、お嬢様などと呼ばれる存在でもない。
けれどそう思うよりももっと強い疑問が、私を支配した。
リーチェって、もしかして……。
「失礼いたします」
そう一言添えて、扉は開け放たれた。
窓から差し込む力強い太陽の光に、私は思わずシーツで顔を隠してしまう。
けれどそれより先に部屋に足を踏み入れた侍女が、私に向けて会釈をした。
「リーチェお嬢様、今朝は旦那様も朝食を一緒に召し上がられるそうです。ですから朝食までに支度を済ませるようにと、旦那さまからも仰せつかっております」
侍女はそう言い、彼女の後ろからも数人が部屋の中へと入ってきた。
……やっぱり。
そおっとシーツを下ろし、顔をのぞかせると、ベッドのそばで私が起き上がってくるのを待っている。
その彼女が私の顔を見ても驚く様子はない。ということは、私は間違いなく――。
確信を込めて、ベッドから起き上がり、鏡の前に立つ。そこに映ったのは、燃えるような豊かな赤い髪に、黄金色をした瞳を持つ人物、リーチェ・ロセ・トリニダードが立っていた。
やっぱりここは、『青愛』の世界だ。
私はどうやら、自分が描いたマンガの世界『青い瞳の侯爵様は愛をささやく』のモブ令嬢リーチェ・ロセ・トリニダード男爵令嬢に転生していた。